韓国学校外教育バウチャー制度の視察報告(2012/11/18〜20)

学校外教育バウチャーの事業(政策)を行っているのは、日本だけではありません。実は隣国「韓国」でも同様の政策が実施されています。

CFCでは、今後子どもたちに対してより適切な支援を行うために、韓国の学校外教育バウチャー制度を視察をしてきました。本ブログにて、視察の報告をさせていただきます。
※3日間という限られた時間内での視察でしたのでまだ不確かなことも数多くあります。予めご了承ください。

○韓国の教育事情
現地の方へのヒアリングの結果、以下の社会的背景が明らかになりました。

・学校外教育が非常に盛んに行われている。
例えば現地で出会った方のお子様(小学校1年生)はテコンドー、スイミング等の習い事をしていました。もう一人のお子さん(小学校4年生)はテコンドー、スイミング等に加え学習塾にも通っており、何も活動していない日は日曜日のみとのこと。放課後、学校の前で学習塾の通塾用バスが生徒を待っているという光景も多く見られるそうです。「私は子どもの習い事のために働いているようなものだ」という保護者の言葉がとても印象に残りました。

・経済格差が学校外教育の格差を生んでいる
韓国の学習塾代は1教科で月に約25万ウォン(日本円で約17500円)程かかります。複数教科を学習する場合は、この倍くらいの費用がかかり、家庭にとって大きな負担になります。そのため、家庭の経済格差によって「教育格差」が生まれるという、日本と同様の現象が起こっています。その対策として、韓国では一部の自治体で学校外教育バウチャーによる支援を行っています。

○韓国版学校外教育バウチャー事業の概要
今回の視察でバウチャー政策を行っていることが確認できたのは、ソウル特別市内の龍山(ヨンサン)区です。龍山区は人口約245,000人と、ソウル特別市25区の中でも比較的大きな行政区です。

・支援対象:
低所得世帯の小学生・中学生
※基礎生活保障受給世帯(日本でいう生活保護世帯)、次上位階層世帯(日本でいう就学援助世帯)、低所得の一人親家庭、その他所得基準等の条件を満たした世帯の子ども対象
・支援内容:
(1)対象の子どもは民間の学習塾の授業を無料で受けることができる
※予め登録された教育事業者の中から子どもが受けたい事業者を選択する。
※サービス受講数の上限については、今回の調査では分からなかった。今後継続的な調査が必要。

(2)対象の子どもは一人当たり毎月4万ウォン(約2800円程度、本2〜3冊分)の教材費を支給される
※子ども・親が教材を立替えて、後日換金する形をとる。バウチャー券は発行しないが、この方法でも使途を教育サービスに限定できるため、バウチャー制度といえる。

・バウチャーの原資
サービス受講費:教育事業者が無償で受け入れる形をとるため、教育事業者が負担することとなる
教材費:社会福祉共同募金会が集めた寄付金
※以上の結果からすると、バウチャーに税金は投入されていない。ただし、社会福祉共同募金会に国からの補助金が入っている可能性もある。これらについては、今後更に詳細な調査が必要。

・バウチャー利用先:
学習塾のみ
※子どもから新たな学習塾の追加リクエストする仕組みは設けていない。リストにある学習塾の中から子どもが選択する形をとる
※龍山区内では学習塾25教室が登録されている

<フロー図>

※教育事業者はサービス代金の60%を公益法人に寄付したという扱いになるため、
公益団体に寄付をしたことの証明が発行される。

・支援期間:
期間は1年間としている。毎年1月に更新手続きをすることで継続的な支援が受けられる(審査有)。

・申請方法:
所轄自治体に、所定の申請書、成績証明書他、対象者であることを証明する書類を提出する。定員を超えた場合は審査を実施する

・実施主体:
地方自治


(写真)現地での打ち合わせの様子

龍山区では、今年の4月からこの政策をスタートしたばかりで、現在100名の子どもを支援しているとのことです。龍山区以外でも同様の事業を行っている可能性もありますが、今回の視察だけではわかりませんでした。ただ、韓国の市民へのヒアリングをしたところ、この政策を知っている人はほとんどいませんでした。日本と同様、まだまだこの制度が広く認知されていないのではないかと思います。

また、制度の大枠は日本も韓国もよく似ていますが、今回の視察の結果、韓国で行われている学校外教育バウチャー政策では、制度上いくつかの課題も浮かび上がりました。例えば次のようなものです。

(課題1)学習塾が協力するメリットが少ない
サービスの受講費は寄付や税金によって賄われる形ではなく、教育事業者(学習塾)が負担(無料受入)する形をとっています。そのため、教育事業者の負担が大きく、政策に参画するメリットが少ないのではないかと考えられます。
⇒CFCの場合は教育事業者は100%サービス料金を得ることができ、これまで顧客層にできなかった子どもたちを対象にサービスをできるようになります。また、大阪市でも換金率を90%に設定しており、教育事業者が十分なメリットを感じることができる制度にしています。

(課題2)子どもが選択できるサービスが限定的である
サービスの対象は学習塾のみで、文化教室やスポーツ等の体験活動は含まれていません。また、子どもはあらかじめ登録された学習塾リストの中から、受けたいサービスを選択する仕組みですので、選択肢が限定されています。
⇒CFCや大阪市の場合、学習塾だけでなく、スポーツ、音楽等の様々なサービスをバウチャーの利用対象にしています。また、あらかじめ登録されていない教育事業者を子どもが「リクエスト」できる制度を設けています。この制度によって、子どもたちが利用できるサービスの選択肢は大きく広がります。

上記の課題は、CFCや大阪市が行っているバウチャー制度では十分に克服できていることがわかります。これらはバウチャーの利用効果にも大きな影響を及ぼすのではないかと予想できます。やはり学校外教育バウチャー事業は制度設計や、オペレーション次第で良くも悪くもなり得るものだと思いました。改めて制度設計の重要性を認識しました。

また、この学校外教育バウチャー事業が日本と韓国で生まれたのは決して偶然ではありません。「経済格差による学校外教育格差」という共通の社会背景・課題があるからこそだと思います。この事業は学校外教育のウエイトが大きい国でしか生まれ得ないものだと言えます。

最後に、龍山区の学校外教育バウチャー事業には、次のような名前がつけられていました。

“HOPE UP↑ DREAM UP↑”

CFCが掲げる「すべての子どもに機会を。すべての子どもに夢を。」というスローガンと言葉の印象がとてもよく似ていませんか?「生まれた環境に関係なく、すべての子どもたちが夢を持って生きていける社会を作りたい」というベースの考え方は、日本も韓国も共通なのではないかと感じました。

今後も継続的な調査・情報収集を通してより適切な制度設計をしていきたいと思います。


(写真)自治体から入手した資料。“HOPE UP↑ DREAM UP↑”